徳島地方裁判所 昭和24年(行)61号・昭25年(行)14号・昭26年(行)17号 判決
原告 工藤健太郎・佐藤一l(クニユキ)
被告 西尾村・西尾村長・曾我部光晴・株式会社加賀屋商店・藤本和惣次・近藤嘉源太
一、主 文
原告等の請求は孰れもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等は別紙目録記載の物件につき被告西尾村長が被告藤本和惣次に対してなした売却行為は無効であることを確認する。右物件につき被告藤本和惣次が被告近藤嘉源太に対してなした売却行為は無効であることを確認する。被告近藤嘉源太と被告株式会社加賀屋商店は右物件につき昭和二十三年一月二十八日徳島地方法務局中枝出張所においてなした被告加賀屋商店のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。被告西尾村と被告近藤は右物件につき昭和二十三年一月二十日徳島地方法務局中枝出張所においてなした被告近藤のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の物件はすべて西尾村有財産であつたが昭和二十二年八月八日、当時の西尾村長松岡司郎は右物件を被告藤本和惣次に対し随意契約によつて代金十四万五千円で売却し、更に被告藤本はこれを被告近藤嘉源太に対し代金二十四万円で転売し、被告西尾村長は被告近藤にその所有権移転登記のため、その代理人として被告藤本に対して委任状を交付し、被告藤本は昭和二十三年一月十二日徳島地方法務局中枝出張所において中間登記を省略の上被告村より被告近藤に所有権移転登記手続をなしたが、更に被告近藤は数日を経ずして自己が社長である被告株式会社加賀屋商店(当時加賀屋産業株式会社)に対し売却の上、同年一月二十八日右徳島法務局中枝出張所において所有権移転登記手続をなしたものである。然し凡そ村長が村の基本的財産を売却するには地方自治法第二百十三条及び第二百四十三条第二項の規定により財産処理に関する条例を設くべく、又同法第二百四十三条第一項により同売却処分は競争入札の方法に依らなければならないにも拘らず本件売却処分に当つては右の手続は孰れも履践されておらず村議会の議決もなされていないから右村長のなした売却処分は無効たるを免れない。そもそも本件山林は篤志家故石原六郎翁が大正四年村教育のため西尾村立小学校基本財産として、村に寄附したもので、爾来西尾村有財産として管理されその杉、檜の樹量は四十万歳を超え、伐樹による利益金はすべて教育費として最善の考慮の下に使用すべき筋合であつたところ、前村長松岡司郎は通常予算として徴収すべきが相当と思料される些少の教育費のために本件山林の床地及び立木を悉く被告藤本に売却し、前述のように同被告は間もなくこれを被告近藤に金二十四万円で売却して九万五千円の暴利を得、中間登記を省略して昭和二十三年一月十二日同被告に所有権移転登記手続がなされたが同被告は数日を経ずして被告加賀屋商店にこれを売却して所有権移転登記手続をなしている次第である。右売買契約のいきさつを述べると、本件山林は他村の深山に在つて西尾村民はその所在地すら知らず昭和二十二年六月頃同村民、大村三千歳を道案内として同村議会議員仁木島元一、同島野豊一、同流徳雄、同河野盛及び村役場書記岡田恵助の五名が現地調査に赴き、樹量を十万歳その土地並びに立木の価額を十万円と見積り、その旨村長及び村議会に報告したものであるが、その見積額算定基準についての資料及び報告書並びに村議会の議事録等すべて存在せず、前記五名の調査委員が売却委員となつて随意契約により本件売却処分に及んだもので前記売却委員及び西尾村長を始め、中枝村収入役の被告藤本、並びに元名西郡浦庄村長であつた被告近藤等は孰れも村政についての経験を有し地方自治法に通じているにも拘らず本件のような不明朗な売買契約を締結し村有財産を流逸することは故石原六郎翁の素志にも背く所以でもあるから原告等は同翁の素志を思い、村民としての正義感を禁じ得ず地方自治法第七十五条所定の監査請求をなすべく決意し先ずそれに先立つて昭和二十三年十二月十八日被告近藤に本件山林を村有財産として取戻すべく交渉をなしたところ同被告は原告等の趣旨を諒承し、その具体的接衝を被告加賀屋商店(当時加賀屋産業株式会社)常務取締役高瀬文武に委ねたので原告等は同月二十八日同人と交渉の結果同会社に対し、その山林売買代金に取引時よりの利息金を附加して返済があれば右山林を村に返還する旨の快諾を得たので更に翌二十四年一月四日原告佐藤は本件山林の転売人たる被告根本と交渉したところ、同被告はその利得金の返還を拒絶するに至つた。茲において原告等は西尾村有権者総数の五十分の一以上に当る百二十余名の署名を得て同年一月二十日西尾村監査委員岡田竜一に対し、被告村長の本件山林売却処分について監査請求をしたところ同年二月村議会議員総選挙による監査委員の更迭があり右岡田竜一の代りに鎌田虎行鎌田虎雄の代りに岡田恵助が夫々監査委員に就任したため原告等の請求にかゝる監査は岡田竜一の後任である右鎌田虎行においてなさるべきものであるから監査前にその旨を同人等に通告しておいたにも拘らず同年二月一日右鎌田虎行、及び岡田恵助の両監査委員から本件売却処分は適法である旨の回答に接した。然しながら右岡田恵助は前敍のように本件山林売却当時村役場書記としてその売却の衝に当つたもので本件監査をなすにつき原告等より忌避されており、これに加わるべきものでないから、同人の加わつてなした右監査は不当と謂うべく、そこで原告等は更に同年三月十一日地方自治法第二百四十三条の二第一項に基き監査委員鎌田虎行に対し単独による再監査の請求をなしたが同監査委員は、前記監査を有効として更に措置を講じないので原告等は、右地方自治法第二百四十三条の二第四項により被告西尾村長の被告藤本に対する違法な本件売却行為の無効の確認を求めると共にこれに伴う被告西尾村の損害を補填するため請求の趣旨記載の裁判を求めるため本訴請求に及んだ次第である。なお前村長松岡司郎は昭和二十三年十一月三十日辞職し被告村長がその事務引継を了しているので同人を被告とする次第であると述べ、被告西尾村長及び被告西尾村の主張に対し「その主張する随意契約に関する村規程は旧町村制に違背するのみでなく、憲法第九十四条地方自治法第二百四十三条に照して無効であるからこの規定に基く本件売却行為も亦地方自治法第二条第六項第七項により無効である。昭和二十二年五月十六日の村議会の決議は単に売却の意思表示たるに留まり、地方自治法第二百四十三条第一項但書に該当する議決ではない」と述べた外被告等の抗弁をすべて否認した。(立証省略)
被告村長、被告村及び被告藤本の訴訟代理人は本案前の答弁として訴却下の判決を求め、その理由として原告の本訴請求中、昭和二十四年(行)第六一号の被告西尾村長の被告藤本に対する売却行為の無効確認を求める訴は原告等の主張の如く地方自治法第二百四十三条の二による訴にして行政事件訴訟特例法第二条の訴でないことは明白であるからこれとその余の請求に係る訴が同一訴訟手続において併合審理されるには、右その余の訴が同法第二条の訴でなければならないことは同法第六条の規定よりこれを窺うことができるところである。従つて右訴については同法第五条の出訴期間の適用を受け、孰れも遅くともその処分の日から一年内に出訴しなければならないにも拘らずこれを徒過して出訴された右訴は不適法として却下さるべきであると述べ、本案につき各被告訴訟代理人はいずれも主文同旨の判決を求め、答弁として
被告村長及び被告村訴訟代理人は原告等の主張事実中被告村長がその主張の日に西尾村有財産である本訴物件を被告藤本和惣次に対し随意契約により代金十四万五千円で売却したこと、被告藤本が右物件を被告近藤嘉源太に対し代金二十四万円で転売し、被告村長の委任状によりその主張の日の徳島地方法務局中枝出張所において中間登記を省略して被告村より直接被告近藤に所有権移転登記手続をなしたこと、被告村長の右売却処分に当り、原告等主張の調査委員売却委員がこれに関与したこと及び原告等が右売却処分に関し、昭和二十四年一月一日地方自治法の規定に従い西尾村監査委員に対し監査請求をなしたことは孰れもこれを認めるがその余の事実はすべて争う。被告村長は昭和二十二年五月十六日の西尾村議会の売却決議と同議会昭和二十年二月十三日決議制定に係る「随意契約に関する村規程」に基き適法に売却処分を了しており、右村規程は条例ではないからその制定につき徳島県知事の許可を要せず新憲法下においても地方自治法附則第十一条に照らして有効であるばかりでなく本件山林を売却するについては原告主張のような制限は何等附加されているものでないから原告等の主張は何等理由のないものである。仮に右「随意契約に関する村規程」が無効であるとしても本件売却処分に当つて村議会の議決を経ており而も右議決において随意契約による旨決定されておる以上売却処分は無効ではないと述べ、
被告藤本和惣次訴訟代理人は原告等の主張事実中被告藤本がその主張の日に被告村長より西尾村有財産である本訴物件を随意契約により代金十四万五千円で買受け、その後被告近藤にこれを代金二十四万円で売却し、その主張の如く中間省略登記手続によつて被告近藤に所有権移転登記をなしたことは孰れもこれを認めるその余の事実は争う。被告藤本は本訴物件が売却されることを知り現地を調査の上樹量を約三十万歳と見積り一歳当り四円八十銭と時価に評価して買受けたものであつて、右売買は西尾村議会の議決を経ており同村制定の「随意契約に関する規程」に基くものであつて、仮に右村規程が無効であるとしても右村会の議決において随意契約による旨決定されているのであるから被告村長の売却処分は無効ではない。被告藤本が被告近藤にこれを代金二十四万円で売却したのは物価の変動と不動産取得税並びに利子を見込んだものであると述べ、被告近藤嘉源太及び被告加賀屋商店訴訟代理人は原告等主張事実中被告村長が西尾村有財産である本訴山林を被告藤本に随意契約により売却し次で被告近藤が同被告よりこれを買受けて中間省略登記をなし更にこれを被告株式会社加賀屋商店(当時加賀屋産業株式会社)に売渡しその所有権移転登記をなしたこと並びに原告等が地方自治法の規定により監査請求をなしたことはこれを認めるがその余の事実は争う。原告等の本訴は地方自治法第二百四十三条の二によるものであることは原告等の主張するところであるが、右法条は右被告村長の売却行為のなされた後に公布施行された昭和二十三年法律第一七九号「地方自治法の一部を改正する法律」によつて追加されたものであるから本件については同法条の規定は適用さるべきものではなく、仮に適用されるものとしても同条第一項の規定による監査請求は唯当該行為の完了前にのみその「制限」又は「禁止」に関する措置を講ずべきことを監査委員に対して請求することができるのであつて既に終了している行為については適用さるべきものでないから原告等の控訴請求は孰れにしても違法である。又被告村長の本件売却行為は西尾村議会の議決を経て適法になされたものにして無効でないと述べた。(立証省略)
三、理 由
被告西尾村長(当時松岡司郎在任)が西尾村有財産である別紙目録記載の物件を昭和二十二年八月八日被告藤本和惣次に対し随意契約により代金十四万五千円で売却し同被告がこれを被告近藤嘉源太に対し代金二十四万円で転売の上被告村長の委任状により、昭和二十三年一月十二日徳島地方法務局中枝出張所において中間登記を省略の上被告西尾村より被告近藤に所有権移転登記手続をなしたが更に被告近藤が被告株式会社加賀屋商店(当時加賀屋産業株式会社)に売却の上同年一月二十八日右中枝出張所において所有権移転登記手続をなしたこと(被告近藤より被告加賀屋商店に対する売却並びに登記の点については、原告等及び被告藤本並びに被告加賀屋商店間には争なく、被告村長、村及び藤本は明らかにこれを争わない)は当時者間に争なく、原告等が右被告村長の売却行為が地方自治法に違反するものとして地方自治法第七十五条により村有権者総数の五十分の一以上に当る百二十余名の署名を得て昭和二十四年一月二十日西尾村監査委員に対し右物件売却行為の監査請求をなしたが同年二月一日新任監査委員鎌田虎行岡田恵助の両名より右売却行為が違法であるとの回答に接したので原告等は本件売却行為の衝に当つた右岡田恵助の加わつてなした監査は不当であるとして更に同年三月十一日地方自治法第二百四十三条の二により監査委員鎌田虎行に再監査の請求をしたところ、同委員がこれに対する措置を講じないので同条第四項の規定に基いて本訴請求に及んだものであることは各被告の明らかに争わないところである。
よつて先づ被告村長、被告村及び被告藤本の本案前の抗弁の当否について判断するに、原告等の本訴請求が夫々地方自治法第二百四十三条の二第四項の「当該職員の違法なる当該行為の無効」若しくは「これに伴う当該普通地方公共団体の損害の補填」に関する裁判を求めるものであることは原告の主張自体によつて明白にして同法条による訴については昭和二十三年十月二十一日最高裁判所規則第二十八号により行政事件訴訟特例法(以下単に特例法と略す)の定めるところによるものとされ、その訴の性質より考えると右訴は特例法第一条の「その他公法上の権利関係に関する訴訟」であると謂うべく、而して公法上の権利関係に関する訴訟については特例法第六条の適用なく同法第一条により民事訴訟法の適用を受けるところ、本件のようにその訴訟の目的物が互に法律上の牽連関係を有し本来一個の訴訟手続により主張し得たもので且つ同一訴訟手続に服する場合には同法第百三十二条によりその弁論を併合し得ることは謂うまでもなく、又特例法第五条の出訴期間に関する規定に右訴に適用がないものと解するを相当とするから右被告三名の抗弁は採用し難い。
次いで被告近藤及び被告加賀屋商店等は地方自治法第二百四十三条の二は本件被告村長の売却行為のなされた後に公布施行された昭和二十三年法律第一七九号「地方自治法の一部を改正する法律」によつて追加されたものであるから本件については適用さるべきものでないと主張するからこの点について考えるに、原告等の監査請求の対象とした被告西尾村長の売却行為のなされたのは昭和二十二年八月八日であることは前記のように当事者間に争なく、地方自治法第二百四十三条の二の規定が昭和二十三年七月二十日法律第一七九号として公布せられ同年八月一日から施行された「地方自治法の一部を改正する法律」による新設規定であることは顕著な事実であるから地方自治法第二百四十三条の二の規定は、右売却行為後に公布施行されたことになるわけである。而して右法律第一七九号には、右法条の遡及効を認めるべき旨の別段の規定がないからその公布施行前の前記売却行為については、所謂「法律(新法)不遡及」を立前とする法の精神からいつても同条の適用なきものと解するを相当とする。それ故に原告等は右法条に基いては本訴請求をすることができないものと謂わねばならない。
以上の次第で、原告等の本訴請求は孰れもその理由がないから爾余の争点について判断するまでもなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 今谷健一 合田得太郎 尾鼻輝次)
(別紙目録省略)